井沢元彦 『逆説の日本史2 古代怨霊編』

逆説の日本史〈2〉古代怨霊編 (小学館文庫)
 聖徳太子は何故天皇に即位することが無かったのか、そしてその「聖徳」とはどういった意味を秘めたおくり名なのか。そして天智天皇の死の謎と、天智の弟とされている天武天皇の本当の正体とは何か。天武系の天皇が途絶え、再び天智系の天皇に戻り平安京に遷都する意味とは。奈良の大仏とはいったいいかなる意味を持つものなのか。これらの謎を、史実に加えて著者が「日本人の宗教的側面と呪術観」という視点をもって解き明かします。

 とある方に天智・天武の部分のお話を伺ってお薦めされたので、2巻をいきなり読むことになっています。
 客観的史実に加えて、日本人の歴史の根底にある「祟るから祀る」という宗教的・呪術的観点という視点でもって、聖徳太子や天智・天武を再検証するという試みは、ある一定の説得力をち得る仮説を提示することに成功しているように思え、「知っているつもり」だった日本の古代史の新たな側面を拓いたものとして評価できるのかもしれません。
 さらには、日本書紀などの当時の公的な記録というものが時の権力者によって編纂されたものである=時の権力者たちにとって不利な事実は隠されるという点などは、強い説得力を持ち得るものでしょう。
 あるいは、専門家から見れば論理の穴や検証の不十分さを指摘できるか所もあるのかもしれませんが、これまで日本史の教科書や小説などで抜粋された部分程度にしか記紀に触れていない私のような読者だからこそ、本書で提示される仮説はバイアスなしに興味深いものとして感じられる部分はあるのかもしれません。
 中にはやや強引な展開を含む部分もないわけではありませんし、週刊誌の連載をほぼそのまま再掲載したと思われるので、一冊の本として纏めるにあたっては再構成しても良かったのではないかという気もしますが、この何年かで2度ほど奈良を訪れていた今のタイミングだからこそ楽しめた部分がある気がします。