榎田ユウリ 『妖奇庵夜話 その探偵、人にあらず』

妖奇庵夜話  その探偵、人にあらず (角川ホラー文庫)
 人ではないDNAを持つ「妖人」が発見され、妖人が関わる事件を捜査する「Y対」が警視庁内に創設されます。そしてY対に配属された妖怪マニアで厄介な新人脇坂を連れて刑事の鱗田は、人と妖人とを見分ける能力を持つという茶人の伊織を訪ねます。天真爛漫ですが考えなしの脇坂は伊織にやり込められますが、打たれ強く無駄にポジティブな脇坂は伊織のもとに入り浸るようになります。そんな中、監禁されて異様なほどに痩せ細った女性が崖下で転落死体として発見され、「油取り」という妖怪の特性を持つ妖人が事件に関わっているのではないかという憶測が囁かれますが・・・・・。

 現代社会に生きる人間の中に、「妖人」という人類の亜種のDNAを持つ者が発見された・・・という、作り込まれた独特の世界観が生きている作品。
 登場人物の配置についても、ミステリアスで曰くありげな茶人の伊織と、空気を読まないどこまでもポジティブな脇坂、或いは彼らの周りに配置されたベテラン刑事や妖人たちとのバランスも非常に良いと言えるでしょう。探偵役として、或いは作品の核としての伊織の存在感の大きさというのは言うまでなくクリアされていますが、それだけだとどこか単調になりがちな空気を、脇坂というキャラクターが適度に掻き回すことでの効果というのが良く効いています。