高田大介 『図書館の魔女 第一巻〜第四巻』

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

 鍛冶の里に育ったキリヒトは、一の谷の王宮からの迎えと共に最古の図書館である「高い塔」を訪れ、そこで「魔女」と呼ばれる少女マツリカに仕えることになります。言葉を話すことのできないマツリカの手話通訳として図書館での生活をはじめたキリヒトは、卓越した感覚によって一の谷の地下に広がる遺構を発見することになります。キリヒトとマツリカは地下の探索と発見を密かに楽しみますが、海峡を挟んだ隣国との緊張状態が続く中、図書館の力を恐れた勢力の視角がマツリカを狙いはじめます。かつて武力ではなく知恵と巧みな言葉とで各国の利害関係を調整して戦乱を食い止めた先代の図書館の主と同様、マツリカたちも暗躍する大国の思惑に立ち向かうこととなります。

 日本でもファンタジー小説という分野が認知されて久しくなりますが、各読者層向けに細分化し、玉石混合の作品が乱立した分野というのも少ないのではないでしょうか。とはいえ、数あるファンタジー小説の中で、登場人物の魅力と物語のドラマ性だけではなく、その世界を構成する社会、政治、経済、歴史、民俗、地政学など、現実世界と照らし合わせてもそん色がないほどに緻密に創り上げた世界観が物語の背景にしっかりと存在している作品となると、ある程度限られた作品に絞られるような気がします。
 本作はそうした意味で突出した作品であり、魅力的な作品世界をこの文庫4冊を宛てた壮大な物語の幕開けで、しっかりと読者に刻み込んでいると言えるでしょう。
 「高い塔の魔女」として世界を言葉で動かすほどの知略を持つマツリカという少女が、キリヒトという存在を介すことで等身大の「少女」たり得ること、そして「キリヒト」という少年が図書館において言葉を話すことのできない彼女の「言葉」となり、助けとなることを通じて自己を確立していく物語としても魅力的な作品。
 さらには、そうした人間ドラマを展開していく基盤として、言葉を自在に操り武器としながらも、自らの声で言葉を発することのないマツリカと、学問的な素養とは薄い生い立ちのキリヒトによって、「言葉とは何か」というテーマをもしっかりと描き出すことに成功していると言えるでしょう。