高田大介 『図書館の魔女 烏の伝言 上/下』

図書館の魔女 烏の伝言 (上) (講談社文庫)図書館の魔女 烏の伝言 (下) (講談社文庫)

 国の混乱により、山に住む剛力と呼ばれる男たちとともに、ニザマの高級官僚の姫君の一行は、山の尾根伝いに外国へ落ちのびる船の出る港を目指します。ですが、辿り着いた港で船が出るまで身を寄せた廓では不穏な動きがあり…。

 前作とは視点が完全に変わり、"図書館の魔女"マツリカらの登場は下巻の終盤になってからですが、山の民である"剛力"たちや、ニザマの近衛たち、彼らに守られる姫君、港町の地下に潜んで生きる子供らである"鼠"たちなど、個性的な登場人物と、それぞれの文化・生活習慣がリアリティをもって描かれるシリーズ2作目。
 前作が図書館という浮世離れした場所を中心に展開した国家間の権謀術数が描かれていたのに対し、本作ではそうした世界規模の流れの一端にはあるものの、大きな流れを見ることなく翻弄されつつも生き抜こうとする、逞しい人々が終始描かれていると言えるでしょう。
 さらには、言葉を上手く紡ぐことのできない鳥飼いのエゴンを主要な登場人物に据えることで、言葉と知性の本質を描こうとする、前作に引き続いての物語の根幹は本作でも生きています。
 そして全体像の中々見えない物語の細部までが、"図書館の魔女"マツリカが登場すると同時に全てがつまびらかにされる世界の整合性とも言うべきものも、本作の魅力かもしれません。図書館の魔女マツリカが、最後の最後になってようやく表に出てきたことで、今後の物語世界への期待も一層大きなものとなっていると言えるでしょう。