ジェフリー・ディーヴァー 『限界点 上下』

限界点 上 (文春文庫)限界点 下 (文春文庫)

連邦機関の公にはなっていない組織で、危険に晒されている人物を警護するコルティは、かつて自分の師であった人を拷問の末に殺害した<調べ屋>と呼ばれ、苦痛をもって情報を引き出すヘンリー・ラヴィングに狙われているらしい、警官の一家の安全を図る任務につきます。
警護対象の刑事のライアン・ケスラー含め、やっかいな一家を安全な場所へと匿う手はずを整えるコルティは、ラヴィングの執拗な襲撃に応戦しつつ、さらには任務に横やりを入れてこようとする相手を煙に巻きながら、虎視眈々とラヴィングを仕留めるチャンスを狙います。

リンカーン」ライムやキャサリン・ダンスのシリーズには分類されない、ノンシリーズのサスペンス作品。
やはりシリーズキャラクターのように、既知のキャラクターに感情移入を出来ないでいるところからのスタートということもあり、キャラクターに引っ張られるスピード感という面では弱さは感じます。淡々と進む前半は、コルティとラヴィングとの駆け引きは常にあるものの、作者の代名詞でもある目まぐるしいどんでん返しといった派手な展開にはなりません。
後半に入り、展開は加速して、思わぬ真相が次々に露になり、ようやく作者の面目躍如といったところですが、主人公のコルティが中々に奥深い(ある意味闇が深い)人物であることもあり、もっとキャラクターで引っ張っても面白くなったのではないかという残念さもあります。
キャラクターの人物造形、緻密に構築された人間関係や設定など、単発で終わってしまうのは惜しい一作かもしれません。