リンダ・ハワード 『見知らぬあなた』
短編集
『ブルームーン』『夢のほとり』『白の訪問者』の3篇収録。
最後の『白の訪問者』のみ、割と普通のサスペンスの設定ですが、作中で保安官助手を名乗る男の着ていた服についての疑問点が、今ひとつ最後まで明確にされないまま大団円にもつれ込んだことが気になります。
訳がやわらかいのでさらっと流し読みするには丁度良い1冊ですが、短編と言うボリュームではどの作品も描ききれなかった部分がある感も否めません。
リンダ・ハワード 『悲しみにさようなら』
生後間もない息子を誘拐された母親が、本作の主人公。
物語は主人公のミラが、行方不明者の捜索団体のトップとなって現場で、人身売買や臓器密売の組織と戦い、10年前に息子を攫った犯人を追うというものですが、全ての犯罪の黒幕となっている人物関係を明かすタイミングが些か早いために、中盤以降は予想通りそのまま何のサプライズもなく終わるといった感じがします。
二人の男性のどちらがヒーローでどちらが敵なのか、もう少し謎のままにしても面白かったかなというのがざっと読んでの印象。また、この二人の男性の隠された関係については、些か書き込み不足なのか、唐突な感じがしました。
ラストは子供を失った母親の悲嘆という部分は深いところまで描いた意欲は認められるものの、結末は少々大団円過ぎて「これはありなのか?」と首を傾げてしまう部分も無きにしも非ずといったところ。
ただ、いわゆるハーレクイン・ロマンスの王道である「危険な香りのする男」との恋が、一番の本筋なのでしょうから、これはこういうものなのかもしれません。
[読了] リンダ・ハワード 『チアガールブルース』
チアの伝統のない日本においてはタイトル的にどうかとも思うのですが、表紙も「いかにも」だったんですね。一歩間違えれば傲慢で鼻持ちならない女という印象しか残さないヒロインを、非常にコミカルに描いたところは非常に面白かったです。
事件の担当警察官と事件関係者が深い関係になるのがどうなんだろうとか、一般的な制約はこの際置いておくにしても、ヒロイン視点の一人称であるためか、相手役である男性の心情の描き方が今ひとつ理解出来ない部分が大きいと言わざるを得ません。こうしたある種"ヒーロー"の描き方は、ロマンス小説ならではの甘さが出てしまったというべきなのかもしれません。
反面、主人公の母親や姉妹など、脇役の女性の個性の描き方は過不足なく好感を持てるものでした。
サスペンス要素に関しては、フェアプレイ云々という推理要素は求められていないのでしょうから、取り立てて言うべきこともないのでしょう。ただ、犯人の心理も今ひとつ場当たり的であった気がします。