有川浩 『県庁おもてなし課』

県庁おもてなし課
 高知県庁の中に発足した「おもてなし課」。何をすれば良いのか、まずは高知県出身の著名人に「観光特使」として名刺を配ってもらう……という施策をはじめたところ、作家の吉門から名刺がいつまでも届かないことで「民間との時間感覚の差」を指摘されてしまいます。観光で地元を活性化させるために何が必要なのか、民間から乖離した行政の感覚をどう正すのか、そしてそれを行うために行政の壁とどう向き合うのか。入庁三年目の掛水は、仲間たちとともに試行錯誤をはじめます。

 硬直化した組織の中で足掻く登場人物の物語、という枠組みでは、これまでの有川路線を裏切らない手馴れた一作。地方行政の観光政策という、ある種地味な題材をここまで完璧にエンターテインメントに出来る著者の手腕はさすがというところ。有川作品らしい、登場人物の熱さや格好良さ、恋愛要素を絡めることでのエンターテインメント性の向上などを十二分に楽しむことができます。
 行政が柔軟に様々に変化する現実へ対応することが求められ、また地方行政の重要性が増していく中で、多くの示唆に富んだテーマを、リーダビリティの高い物語として上梓することに成功した一作と言えるでしょう。