畠中恵 『ねこのばば』

ねこのばば (新潮文庫)
 病弱な若だんなの体調もいつになく良く、店でも良いことが続く中、ひょんなことで若だんなが拾うことになった金次という貧相な男が、前に勤めていた店の長女を殺した容疑を掛けられます(『茶巾たまご』)。
 どこからか迷ってきたような於りんと名乗る少女を長崎屋で保護した若だんなの一太郎ですが、於りんの「帰ったら、於りんは殺されるんだって」という言葉が気になります(『花かんざし』)。
 上野の寺に捕らえられた猫又を解放させるのとひきかえに、縄もないのに首を吊って死んだ坊主の事件と、消えた寺の金の事件を解き明かすことになる若だんなですが…(『ねこのばば』)。
 付き合いのある店が次々に立ち行かなくなり、そのことで金銭的に苦しくなる店を心配する手代の佐助ですが、突然店に現れる金に不審の念を抱きます。そして、若だんなが店の主である父親と怪しげな集まりに出かけて行くことにただならぬ不安を覚えますが…(『産土』)。
 幼馴染の栄吉の妹にわいた縁談の相手を見極めに出かけた長崎屋の若だんな一太郎ですが、何者かに狙われる縁談相手の事情に巻き込まれ、侍に拉致されてしまいます(『たまやたまや』)。

 妖という存在あってのという意味での真相の面白さがある表題作「ねこのばば」、物語の構造そのもののつくりの良さが際立つ「産土」など、どこか切ない人間の世を描きながらも、若だんなや妖たちの飄々とした個性でどれも「良い話」になっています。
 特に『産土』は、ホラーのような不気味な雰囲気の演出と、最後に大きくひっくり返る展開が秀逸な作品。
 各話とも、人の世のやり切れなさや苦さを感じさせる物語であると同時に、軽妙な筆致と登場人物の情の深さに救われ、絶妙の読後感をもたらしてくる作品に仕上がっていると言えるでしょう。