篠原 美季 『よろず一夜のミステリー 金の霊薬』

よろず一夜のミステリー: 金の霊薬 (新潮文庫)
 都市伝説を扱うサイト「よろず一夜のミステリー」で、徐福伝説にまつわる黄金伝説と、それにまつわる者の不審な死をを調査することになり、アルバイトの恵(ケイ)は社長の輝一とともに山梨へと向かうことになります。

 徐福伝説に関係する黄金と不老不死、それに近づく者たちを害する得体のしれない組織の影…と言ってしまえば、実に陳腐な物語となりそうなガジェットではありますが、本作ではその辺りを脇役を含めた登場人物の配置と物語の展開の良さで、薀蓄を織り込みながらも上手い具合に広く楽しめるエンタメ作品として仕上げています。
 敢えて難を言うならば、歴史や伝説の謎とそれに絡んで現代に起こる殺人というミステリー要素にしろ、ライトノベルとして「キャラクターで読む」という面にしろ、今一つ突き抜けるものはないというシリーズとしての弱さは指摘できるかもしれません。特に主役級のレギュラーメンバーに関しては、それぞれ個性的であるにもかかわらず、作品の中で彼らが揃って登場してしまうと際立つ個性というには、各々への踏み込みが弱いという一面があるようにも思います。
 黄金と不老不死の正体に関しては、作中におけるリアリティとエンターテインメント性との一定の融合点を見出すことが出来、読みながら次の展開にする期待を裏切らない落としどころであったと言えるでしょう。