桑原水菜 『出雲王のみささぎ 西原無量のレリック・ファイル』

出雲王のみささぎ    西原無量のレリック・ファイル
 発掘人員派遣会社で発掘コーディネーターを目指す長倉萌絵と、弱冠22歳の天才的な発掘師である西原無量は、出雲での発掘調査に派遣されます。降矢家と八頭家という地元のいわくつきの旧家が地権者として絡む発掘調査で、無量は早速銅剣とともに青銅製の髑髏という、画期的な遺物の発掘に成功します。ですが、何者かに携帯で呼び出された無量が襲われ、さらには発掘現場で殺人まで起こってしまいます。事件の根は、降矢家と八頭家にあると睨んだ彼らは、元文化庁の職員でもある相良忍とともに関係者を探りつつ発掘を進めますが…。

 いかにもライトノベル的なキャラクター配置とストーリー、そしてそれを裏支えする日本史に含まれた謎をうまく融合させたエンタメ作品。天皇家南朝の血統と出雲神話の血脈という実にアヤシゲな素材は、エンタメ作品だからこそ生きてくる部分は確かにあり、その辺りをさらっと読ませてしまう上手さはあるでしょう。その意味では、あくまでも「日本史の闇」をエンタメ素材として扱ったからこその一作とも言えるかもしれません。
 犯人に関しては、ある意味出来過ぎの予定調和のうちと言えなくはないですが、その犯行が生まれるに至った、戦中・戦後をまたいだ複雑な経緯と人間模様を、煩雑さをさほど感じさせることなく読ませてしまうリーダビリティが本作にはあると言えるでしょう。
 いわくの深い二つの旧家の過去と歴史を掘り起こしつつ、そこに在る人間模様から起こる殺人事件をエンタメ色たっぷりに描いた一作。
 これの前にシリーズ作品として1冊あるようですが、そちらは未読。