天才建築家の驫木が建てた「眼球堂」に招待された放浪の数学者の十和田と、彼に密着取材を試みるルポライターの陸奥藍子。二人を迎えた眼球堂には、日本を代表する各分野の学者たちが集められていて、全員を集めた席で驫木は建築学こそが全ての学問の頂点であるという説を唱えます。ですが、集まった学者たちに対して挑発的な態度を取る驫木によって不穏な空気になった翌朝、建物はロックされて扉から外に出ることが出来ない状況の中、窓からの距離にして15mのところにある高さ10mの尖ったポールの頂上に、もずのはやにえのようになっている死体らしきものが発見されます。そしてさらに、クローズド・サークルで不可能状況の殺人が続きます。
天才建築家の建てた奇妙な館に集った天才たちが不可能状況の中で次々に死を迎えるという、古典的な館もの。こうした館ものならではのトリックも満載で、ある程度読み慣れた読者には仕掛けの見当もつくものでしょうが、大がかりで「いかにも」な館ものの醍醐味が楽しめる一作と言えるでしょう。
難を挙げれば、どのようにしてトリックが形成されたのかというハウダニットの完成度に対して、何故その犯行が行われたのかというホワイダニットの点では今一つ説得力が弱かったということは指摘できるかもしれません。また、トリックに関しても大がかりで作中における合理性は認められるものの、どこかで見たような……という雰囲気は各所に見られる気はします。ただそれも、個別のトリックに関しては目新しさがない反面、『眼球』というモチーフにとことんこだわったトリックの面白さは評価される点でしょう。
コードを重視してロジックとトリックの追求を試みる新本格系のツボは押さえられており、綾辻行人+森博嗣といった作風が好きであれば楽しめる作品。