恒川光太郎 『雷の季節の終わりに』

雷の季節の終わりに

 「隠」(おん)と呼ばれる地図にも無い不思議な土地で暮らす少年、賢也には、かつて年の離れた姉がいました。ですが彼女はある年の雷の季節に行方不明になってしまい、「鬼に攫われた」と言われてきました。姉がいなくなってから賢也には、「風わいわい」というもののけの類が憑いて――。

 本作が著者の初の長編にあたるわけですが、直木賞候補作であった前作『夜市』同様、独特の異世界を構築することに成功した良質の幻想小説に仕上がっているということがまず評価出来るでしょう。淡々とした筆致に中に、非常に鋭く感性を抉る描写があり、さらには精緻な世界構築がなされることで、独特の美しい世界が構築されています。
 現代の和製幻想小説でしか描けない世界観は著者の持ち味であるとともに、どこへ辿り着くとも分からない結末が最後には綺麗にぴたりとはまるさまは実に見事。
 ただ、やはり若干色々なものを詰め込みすぎてしまったために、消化不良とまでは行かないものの少々勿体ないなという部分もありました。シンプルに無駄な部分が削ぎ落とされた『夜市』の方が洗練された印象はありますが、本作も十分に良作と言えるでしょう。