ナツイチ製作委員会編 『あの日、君と Boys』

あの日、君と Boys (あの日、君と)
 伊坂幸太郎井上荒野奥田英朗佐川光晴中村航西加奈子柳広司山本幸久のラインナップで描かれる作品集。
 対になるGirls版と比べると、やや「あの頃の自分と"君"」というコンセプトが必ずしも明確ではない作品もありますが、Girls編はほぼ恋心というキーワードが大きな割合を占めていたのに対し、Boys編の本書はバラエティに富んだ作品集となっていると言えるでしょう。子ども時代の「あの頃」を思い出す爽快さを感じさせる青春小説から、必ずしもスッキリはしないものまで、各作家の異なるアプローチで描かれます。
 本書において特に秀逸な作品のひとつである冒頭の伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』は、いかにも著者らしい強さが印象的であり、「僕はそうは思わない」という端的なフレーズに、伊坂作品に一貫して流れる哲学のようなものを見て取ることも出来るでしょう。
 中村航の『さよなら、ミネオ』は、本書のコンセプトをある意味直球で描きながらも、作品そのものは変化球と言えるかもしれません。唯一だった「親友」との別れがそのまま、孤独な少年期の転換点となるというテーマが綺麗に現れた一作と言えます。
 総じてGirls編と比較すると、Boys編とGirls編では、視点そのものが全く異なる作品群が出来上がっている辺り、子どもである「少年」と子どもでも大人でもない生き物である「少女」との差異が、見事に現れていると言えるのかもしれません。